はじめに|障害福祉サービス施設のBCPでよくある担当者設定
障害福祉サービス施設のBCPについてご相談を受ける中で、「担当者をすべて代表取締役(法人代表)にしても問題ないでしょうか?」
というご質問をいただくことがあります。
具体的には、
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災害時対応責任者
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感染症対策責任者
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利用者対応・家族連絡担当
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職員への指示・判断者
これらの担当者を、すべて代表取締役として設定しているケースです。
特に 就労継続支援A型・B型、共同生活援助(グループホーム)、小規模な児童発達支援・放課後等デイサービス など、人員が限られている事業所ほど、
「代表が責任者なのだから、まとめて代表取締役でよいのでは」
「細かく分ける必要があるのか分からない」
と悩まれることが多いように感じます。
この記事では、そうした実際にいただいたご質問をもとに、障害福祉サービス施設におけるBCPの担当者設定について考えていきます。
障害福祉サービス施設におけるBCPの特殊性
障害福祉サービス施設のBCPは、一般企業のBCPとは性質が異なります。
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利用者の安全確保が最優先
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職員の判断で即時対応が求められる
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利用者本人だけでなく、家族・相談支援専門員・自治体との連携が必要
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サービス停止が生活に直結するケースが多い
つまり、「現場が止まらないこと」が何より重要なのです。
そのため、担当者設定が実態に合っていないBCPは、いざというときに機能しません。
代表取締役一択にしがちな理由(障害福祉施設あるある)
小規模法人・兼務体制が多い
障害福祉事業では、
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代表取締役=管理者
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代表取締役=サービス管理責任者(または児発管)
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代表取締役=現場責任者
というケースも珍しくありません。
また、
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管理職が少ない
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職員の入れ替わりがある
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書類修正の手間を避けたい
といった理由から、「全部代表取締役にしておくのが無難」と考えがちです。
気持ちは分かりますが、ここに大きな落とし穴があります。
落とし穴① 代表が不在=BCPが機能しない
BCPは「最悪の事態」を想定する計画です。
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代表取締役が被災している
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感染症により出勤できない
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夜間・休日で連絡が取れない
特にグループホームや入所系・通所系サービスでは、代表が常に現場にいるとは限りません。
すべての判断を代表取締役に集中させていると、
「誰も決断できない」
「現場が止まる」
という事態が起こり得ます。
落とし穴② 現場職員が動けなくなる
担当者が代表取締役のみの場合、現場ではこんな声が出がちです。
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「管理者の指示がないと判断できない」
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「勝手に動いていいのか分からない」
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「利用者対応をどこまでしていいのか不安」
障害福祉サービスでは、初動の遅れが利用者の安全に直結します。
BCPは本来、
「この場合はこの人が判断していい」
という安心材料になるはずです。
落とし穴③ 指導監査での印象が悪くなることも
近年、障害福祉分野ではBCPの整備・運用が重視されています。
指導監査や運営指導の場で、
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担当者がすべて代表取締役
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現場職員の役割が見えない
となっていると、
「実際に運用できる体制になっていますか?」
と確認されることがあります。
形式的にBCPを作っていても、実効性が疑われるのは避けたいところです。
では、代表取締役を担当者にしてはいけないのか?
答えはNOです。
障害福祉サービス施設においても、
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最終判断者
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法人としての責任者
として、代表取締役をBCPの中心に据えることは自然です。
問題は、代表取締役しかいないBCPになっている点です。
障害福祉施設でおすすめしたい担当者設定の考え方
私は「個人名の記載」をおすすめしています
BCPの担当者設定について、
「役職ベースで書いた方が現実的ではないか」
と考えられることもあります。
しかし、私は担当者を役職名だけで記載する方法はおすすめしていません。
なぜなら、私が実際に作成しているBCPでは、すべての担当者を個人名で明確に記載しているからです。
なぜ個人名での記載をおすすめするのか
BCPは「書類として整っているか」よりも、
非常時に本当に機能するかが重要です。
役職名だけが書かれているBCPの場合、
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「今の管理者は誰だっけ?」
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「夜勤のときは誰が判断する?」
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「不在時は誰に連絡すればいい?」
と、いざというときに迷いが生じやすくなります。
特に障害福祉サービス施設では、
利用者対応・支援判断・家族連絡など、
その場で即断即決が求められる場面が多くあります。
そのため、
「この場面では、○○さんが対応する」
と顔が浮かぶBCPであることが大切だと考えています。
個人名を記載することでBCPは「実態のある計画」になる
個人名を記載すると、
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誰が責任を持つのかが明確になる
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現場職員が判断しやすくなる
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「自分の役割」を当事者として意識しやすくなる
といった効果があります。
BCPは、
「誰かが何とかする計画」ではなく、「この人が動く計画」であるべきです。
個人名が入ることで、BCPは一気に実務寄りの計画になります。
人事異動や退職が心配…それでも個人名がおすすめな理由
「個人名を書くと、異動や退職のたびに修正が必要になる」
という声もよく聞きます。
確かに、修正の手間はゼロではありません。
しかし、障害福祉サービス施設では、
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利用者や支援内容が変わる
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職員体制が変わる
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法改正や運営基準が変わる
など、BCPを定期的に見直す前提であることがほとんどです。
であれば、
「修正しやすさ」よりも
「非常時に迷わないこと」
を優先すべきだと考えています。
実務での担当者設定の一例(個人名ベース)
例えば、
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総括責任者:代表取締役 〇〇 〇〇
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現場対応責任者:管理者 △△ △△
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利用者対応・支援判断:サービス管理責任者 □□ □□
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職員連絡・シフト調整:主任 ☆☆ ☆☆
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代替責任者:副管理者 ◇◇ ◇◇
このように記載することで、
「誰が・どこまで判断していいのか」が明確になります。
小規模施設・人が限られている場合の工夫
「正直、代表と数名の職員しかいない」という施設でも、
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夜間・休日の判断権限を管理者に委ねる
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利用者対応は現場職員が優先して行う
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代表不在時の連絡フローを明記する
など、一人に集中させない設計は可能です。
完璧である必要はありません。
「代表がいなくても最低限回るか」を考えることが重要です。
障害福祉サービス施設こそ担当者設定が命
障害福祉サービス施設のBCPでは、
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利用者の安全
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現場の判断
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継続支援
これらを守るために、担当者設定が欠かせません。
代表取締役一択のBCPは、
いざというとき、施設も現場も守れない可能性があります。
おわりに|BCPの担当者設定で迷ったらご相談ください
BCPは、形だけ整っていればよい書類ではありません。
特に障害福祉サービス施設では、「誰が動くのかが明確になっているか」が、非常時の対応力を大きく左右します。
「担当者をすべて代表取締役にしていて問題ないのか」
「個人名をどこまで記載すべきか」
「今の体制で本当に機能するBCPになっているのか」
こうしたお悩みは、実際に多くの事業者様からご相談をいただいています。
弊所では、障害福祉サービス施設の実情を踏まえ、現場で本当に使えるBCPの作成・見直しをお手伝いしています。
BCPの内容に少しでも不安を感じたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
施設の状況に合わせた、無理のない形をご提案いたします。













