ちょっと役立つコラム
9.132025
抹茶好き行政書士が語る──遺言書に「遺骨を茶畑に撒いてほしい」と書いてあったらどうする?

はじめに — なぜ私がこの話をするのか
私はいつの間にか「抹茶好き行政書士」と名乗るようになりました。抹茶のほろ苦さや、緑の風景に心を安らげられるからです。実は密かに「もし私が亡くなったら、茶畑に撒かれたら抹茶になれるかも?」なんて冗談めかして考えたことがありました。そんな“抹茶になることへの憧れ”があるからこそ、遺言に「遺骨を茶畑に撒いてほしい」と書かれていたとき、家族がどう対応すればよいかを行政書士の視点で整理しておきたいと思います。
遺言書に書けることと書けないこと
遺言書には、民法で定められた「効力を持つ事項」と「希望にとどまる事項」とがあります。
効力を持つ事項の代表例は以下のとおりです。
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これらは法律上の効力が認められており、基本的には遺言に従わなければなりません。
一方で、「自分のお墓はここにしてほしい」「葬式はこういう形でしてほしい」「遺骨は海に撒いてほしい」といった内容は、いわば“希望”のようなものです。
これらは法律上の強制力はなく、残された家族が実現できる範囲で尊重するにとどまります。
遺言は“最後の希望”だけれど、全部が強制ではない
遺言書は故人の最後の意思を示す大切な書面です。しかし、すべての内容に法的な強制力があるわけではありません。財産の分配や後見人の指定など、法律上で効力が認められる部分と、葬送の方法や埋葬場所といった“希望”にとどまる部分があります。遺骨の扱いに関する記載は、通常は「希望」の側面が強く、残された家族が実現可能かどうかを考えて判断することになります。
遺骨を勝手に撒くことはできない
では、「茶畑に遺骨を撒いてほしい」という遺言は実現可能なのでしょうか?
結論からいえば、難しいです。
日本には「墓地、埋葬等に関する法律」という法律があり、遺骨の埋葬や収蔵は墓地などの許可された施設でしかできないと定められています。
つまり、庭や畑、山林などに勝手に遺骨を撒いたり埋めたりすることは、原則として認められていません。
また、茶畑は農地ですから、そこに遺骨を撒くことは農地法や周辺住民との関係でも問題になります。衛生的にも好ましくなく、現実的に不可能といえます。
散骨という方法はあるけれど…
一方で、最近は「散骨」という方法を選ぶ方も増えています。
散骨は、粉末状にした遺骨を海や山に撒く方法で、法的に明確な規制はありません。
ただし、散骨はあくまで「節度をもって行うこと」が前提です。
海洋散骨を代行する業者も増えていますが、山や農地での散骨はトラブルになりやすいため、基本的には推奨されません。
茶畑に散骨するのは現実的に困難であり、業者に依頼したとしても引き受けてもらえないでしょう。
家族が無理をして従う必要はない
ここで大切なのは、「遺言に書かれているからといって、すべてを必ず実現しなければならないわけではない」という点です。
遺骨の扱いに関しては、最終的には残された家族が判断します。
法律上の強制力はなく、あくまで「故人の希望」として尊重できる範囲で実現すればよいのです。
もし「茶畑に撒く」というのが無理であれば、代替案を考えることもできます。
代替案の具体例 — 故人の気持ちをどう受け止めるか
故人の「自然に還りたい」「茶と縁のある場所にいたい」という気持ちを尊重しつつ、家族が安心できる形にする方法はいくつかあります。
例えば…
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私自身の「抹茶になれるかも?」という発想は冗談半分ですが、故人の“抹茶”への思いを象徴的に形にする方法は必ずあります。
茶畑そのものに撒けなくても、抹茶を使った供養(お茶会を開く、故人の好きだった茶葉を供えるなど)で気持ちを表すことができます。
家族会議と専門家への相談が大事
遺言の文面だけで家族が対立してしまうケースもあります。そんなときは「法律上こういう位置づけである」という事実を共有したうえで、故人の意思と家族の気持ちをどう折り合いをつけるかを話し合ってください。
必要なら専門家、葬儀社、散骨業者、さらには市区町村の窓口に相談すると、具体的で安全な方法を提案してもらえます。
最後に — 気持ちをどう形にするかが一番大切
遺言は故人の「最後の願い」です。可能な範囲でかなえてあげたい気持ちは、遺された人として自然です。でも、何より大切なのは「故人を想う気持ち」をどう家族のかたちで表すか。茶畑そのものに撒けなくても、抹茶への想いを象る何かを残すことはできます。
私が抹茶を愛するように、故人が愛したものを思い描きながら、無理のない形で供養していければ、それが一番の供養になるはずです。
おばた行政書士事務所では遺言書の作成のサポートを行っています。
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